代表理事 半谷 栄寿(はんがい えいじゅ)さん
今回は、南相馬市原町区にある「一般社団法人 あすびと福島」代表理事 半谷栄寿さんのお話を伺ってきました。
半谷さんを一言で表すと・・・
~若者が挑戦して成長できる場づくりと社会課題解決を行っている人~です。
半谷さんは、元々新しいことに挑戦したいという気持ちが強かったそうです。事業がうまくいかなかったとしても、不変な志に向かって手段を変えていく度に学びを得て今に生かしているとのことでした。
~プロフィール~
代表理事 半谷栄寿(はんがい えいじゅ)さん
半谷さんは南相馬市小高区出身、1953年5月生まれ。
趣味は学生と話をすること。
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設立の経緯について教えてください
私は大震災の前年まで東京電力の役員を務めており、1997年のJヴィレッジのオープンにも携わりました。2011年3月11日の震災直後、私は原子力事故への責任と生まれ故郷への思いから、南相馬市に支援物資を運び続けました。その時に出会った地元の方から「モノの支援だけでなく、地元の子供たちのために何かしてほしい。」という思いを託され、長い時間のかかる福島の復興を担う人材育成の仕組み創りを志しました。
そして2013年3月、人材育成の拠点である「南相馬ソーラー・アグリパーク」を立ち上げ、若い世代が自ら成長していく場づくりを開始して6年になります。これは、多くの方々のご支援とあすびと福島のスタッフの努力のおかげです。
どんな事業をしているのですか?
「小中学生の体験学習」、「高校生あすびと塾」、「高校生が伝えるふくしま食べる通信」、「大学生あすびと塾」、そして「社会人研修」の5つの事業を行っています。
「小中学生の体験学習」は私たちが最初に始めた人材育成の場づくりで、キッザニアの協力を得ながら、学校の総合学習と連携して2013年4月にスタートしました。
本物の太陽光発電所での巡視点検体験や、太陽光パネルの方角と傾きを自分たちで変えながら太陽光と発電量を研究する体験など、自然エネルギーをテーマに学んでいます。
私たちはこの体験学習の中で「発表する経験」を大切にしています。発表するためには考えますし、発表したからには行動が期待されます。つまり、「発表する力」は「考える力」と「行動する力」につながるのです。南相馬市では、小中学生3,400名のほぼ全員が体験するまでになりました。このような体験学習をした高校生とともに南相馬の課題解決に取り組んでいます。
「高校生あすびと塾」は環境ジャーナリストの枝廣淳子さんと共に2014年5月からスタートしました。県内の高校生が集まりやすいよう、福島市や郡山市で開いています。高校生たちが自分と福島の未来に深く向き合う場です。それを通して高校生たちが自らの志を明確にし、それを実現する手段を具体化し、社会的な事業として実行しようとする場でもあります。これまでに40回開催しています。
「高校生が伝えるふくしま食べる通信」は、あすびと塾に参加していた当時2年生の女子高生が「大好きな福島が誤解されて悔しい。特に福島の農業の信頼回復に貢献したい。」という思いを具体化する社会的事業として2015年4月からスタートしました。年に4回、高校生が福島県内の農家さんを直接取材して聞いた生産者の思いをまとめた情報誌と食材を一緒に毎号2,500円の購読料で読者に届けます。高校生ながら、生産者と読者の思いを結ぶ社会性と経済的継続性を両立する編集部は、すでに6学年目となり、福島の農家さんを応援する読者は全国で700名、発行ナンバーも第15号となりました。高校生の確かな成長の場になっています。
「大学生あすびと塾」はコンサルティング会社のPwCの協力を得て、2018年6月にスタートしました。①福島と離れていても自分と福島の未来に向き合う②ケーススタディによる経営リテラシーの習得、という2つの目的のもと、高校時代に伴走していた大学生が中心となり、「あすびと福島」の東京事務所で毎月開催しています。最初の挑戦として「大学生が伝えるふくしま食べる通信」の立ち上げを考えています。
「社会人研修」は2014年から企画・運営してきました。1泊2日の研修に延べ3,000名を超える官民の社会人を受け入れています。研修カリキュラムは2段階あり、まず被災地視察や地元リーダーとの対話を通して、福島の社会課題や可能性に向き合い、自分事化します。
そして、自社の新しいビジネスや行政政策として福島の復興事業案を立案します。
課題先進地域となった福島の社会課題を解決し、可能性を具現化する事業案を立案する研修は、将来の日本社会全体に新たな価値を創ろうとする意思と行動、熱量を生み出します。社会課題の解決と自社の成長発展を共創しようとする企業などに評価を受けるこれらの研修は有料です。この対価によって、あすびと福島は小学生から大学生までの人材育成を無料で続けています。
社会人研修は、大学生あすびと塾の企画・運営に協力するPwCとのご縁につながりました。経済的な側面に加えて、あすびと福島の志である「福島の若い世代の育成」に向かって志を共有し新たな連携をもたらす場にもなっています。
目的について教えてください
いままでお話した5つの事業を手段として、福島の復興や価値創生を担う人材を育成することが目的です。
新たに取り組んでいる事業について教えてください
社会人研修は企業にとっても行政にとっても人材開発の領域です。あすびと福島は、この延長線上に新たな仕組みとして、企業と南相馬市が協働して地域課題の解決のために社会的事業を起業する「ソーシャルビジネス・オープンラボ」を立ち上げているところです。「野馬追祭り」にちなんで「NOMAラボ」と呼んでいます。南相馬市は、行政だけでは解決できない地域課題に企業の力を活用できます。南相馬市の地域課題は将来の日本の社会課題ですから、南相馬市の地域課題を解決するプロトタイプの事業をスタートすることによって、企業はその事業を全国に展開することが出来ます。
そして、あすびと福島は、これまで伴走してきた学生や自らのスタッフたちがNOMAラボの企画・運営に携わることによって、人材としてさらに成長することが期待できます。
半谷さんの考える理想の地域像を教えてください
私の中で3つあります。
1つ目、あすびと福島が伴走する学生や自らのスタッフが社会起業家として福島で活躍する。そして、その姿を見た子供たちが自分も社会起業家になろうと努力をする、という「憧れの連鎖」が続いていくことで福島に社会起業家が増える。
2つ目、社会起業家が増えることで社会課題が解決され可能性が具現化する福島になる。
3つ目、福島から「憧れの連鎖」が全国に広がり、各地で社会起業家が生まれて新たな価値を創る。これにより福島が地方創生のモデルと言われるようになる。
というこの3つが私の志す理想の福島です。
半谷さんにとって社会起業家とはどのような人ですか?
私にとっての社会起業家とは、自分のやりたいことを起点としながらも、私利私欲ではなく、社会的な新たな価値を創ろうとする志と熱量を持つ人材です。
なぜ、自分のやりたいことを起点にするのかというと、社会的価値を起業するための手段はなかなか見通せず、手段は何度も失敗することがあります。
それでも自分のやりたいことであれば諦めずに、志に向かって熱量を切らさずに何度でも手段を変えて目的を達成することが出来るようになるからです。
私が自分のやりたいことを社会起業家としての志の起点にする所以です。
どのような人材と一緒に働きたいですか
謙虚さと誠実さを大切にする人です。私自身の反省を込めて、謙虚さ・誠実さが試されるのはどんな時でしょうか。私は、志を達成しかかったときが最も謙虚さ・誠実さが試される時だと思います。熱量を失わず思考も停止せず手段を尽くしてせっかく志を達成しようとしても、謙虚さ・誠実さを忘れると周りの人々は去っていくものです。一方、成功しても謙虚さ・誠実さを持ち続ける人材には周りの人々は協力を惜しみません。
よく「人を巻き込む力」といいますが、私は「周りの人々が巻き込まれたくなる状況を創る力」こそリーダーシップの本質であり、その基本は謙虚さ・誠実さにあると思うのです。
大学生にはどんなことをしてほしいですか?
できるだけ多くの人に会ってみてください。自分の人生に大きな影響を与える人に出会えるといいですね。そして自分のやりたいことを見つけた時に、それを実現することでどんな社会的価値を創ることができるのかも考えてみてください。
会社情報
・法人名 一般社団法人あすびと福島
・代表理事 半谷栄寿
・設立年月日 2012年4月26日
・従業員数 8人
・本社住所 福島県南相馬市原町区泉字前向15
・ホームページ http://asubito.or.jp/
・電話番号 0244-26-5623
・FAX 0244-26-5624
・メールアドレス info@asubito.or.jp
お話を伺って・・・
半谷さんの話を伺っている中で一言ひとことに半谷さん自身の思いが込められているのだなと感じました。人材育成の場を創るという話の時に、「憧れの連鎖」という言葉が何度も出てきました。「自分もこうなりたい!」という憧れが挑戦のモチベーションになり、次は子供たちに憧れを与える側になるという連鎖が続いていくことで地域の社会課題を解決する人材輩出の仕組みを創りたい、という言葉には強い思いがこもっていました。
私の中で印象に残ったのは、半谷さんの中で物事やビジネスの考え方が文章や図式で可視化されている点です。頭で考えるだけでなく、可視化して積み上げていくことを見習いたいと思いました。
改めて今回取材にご協力いただいた「あすびと福島」代表理事の半谷栄寿様とスタッフの皆様に御礼申し上げます。
編集(福島大学 佐藤勇樹)
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この事業は、当団体が福島県「平成30年度福島県避難者・帰還者心の復興事業」の助成金の交付を受けて行っています。